ビデオゲームと古典的ゲームモデル(3)
『ハーフリアル』について、各章ごとの簡単な紹介……というか読後のレジュメ? をまとめました。
学生の人にはゲーム研究の入り口として、また社会人の人にはゲーム研究を実務に活かす切り口として、参考になれば幸いです。
ここでは、「2 ビデオゲームと古典的ゲームモデル」の章について紹介します。
今回紹介する内容はpp.59~75までの内容です。
ここまでちょっと長かったですが、これで2章は終わりです。
読んだところの概要・感想
今回読んだところでは、古典的ゲームモデルの適切さやその応用先について述べられていて、ようやく「古典的ゲームモデル」の価値がはっきりとしました。
おそらく今ゲーム研究に踏み出す際、周りの研究に理解がない人から様々な質問を受けると思いますが、それに対する回答がまとまっています。
2章だけでこんな内容があるので、3章以降を読むのが楽しみですね。
疑問点について
前章より持ち越した疑問点
前の記事でちょっと仕分けたとおり、本書読んでいる中で解決しそうなやつのみを挙げていきます。
- 2.古典的ゲームモデルの組み上げ方
- 3.創発型の新規性証明
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
- 5.ゲームデザインに対して可能なゲーム研究からの貢献
- 6.実際のゲームを研究に取り入れる形式
- 8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続
- 定義を作るとき以外の接続
- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 10.境界事例を述べる形式・具体例
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 13.「ルール」と「実践」の関係
- 20.帰結への従属を促す名誉以外の要因の有無
- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
解決した疑問点
2.古典的ゲームモデルの組み上げ方
- p.73にデイヴィッド・パーレットの著作2本を挙げている。おそらくこれらについて、丹念な分析を行ったのではないだろうか。
- 大量の質的データから分析枠組みを切り出す作業の仕方については、以下の記事でちょっとだけ言及。
ただし、調べきれていないところもあるのでそこはご容赦を。 use-k.hateblo.jp
- 大量の質的データから分析枠組みを切り出す作業の仕方については、以下の記事でちょっとだけ言及。
- 書誌情報は以下の通り
Parlett, David. The Oxford History of Board Games. Oxford: Oxford University Press, 1999.
Parlett, David. The Penguin Encyclopedia of Card Games. London: Penguin, 2000.<u></u>
2000年に出された本は和訳が一応存在するみたいですが、古い初版(1979年のもの)のみらしいです。本書で挙げられているのは第2版で、現在は第3版も出てるらしいです(p.248より)。
5.ゲームデザインに対して可能なゲーム研究からの貢献
- p.70で出てきている「ゲーム状態基底」という考え方は、見せ方という意味で新しいゲームを考えるのに役立ちそう。ただし、今のところ本書ではこれについて詳しい説明は出てきていない。
- 脚注で書かれているが、Newell and Simon(1972, 59-63)で説明されていそう?
- 書誌情報:
Newell, Allen, and Herbert A. Simon. Human Problem Solving. Englewood Cliffs, NJ.: Prentice–Hall, 1972.
- ググったらそれっぽいpdfが出てきたけど、年号が違い、またページ数も違ったので別物?
- また、脚注の「Neil and Simon」はおそらく誤字。「Neil」で全文検索しても、参考文献リストに該当箇所はありませんでした。
10.境界事例を述べる形式・具体例
とりあえず、 p.60であら方述べられています。で、何を以て境界事例/ゲームでないものと分けているかを表にしてみたのが以下。
ゲームの種類 | 名称 | ルール | 可変かつ数量化可能な結果 | 結果に対する価値設定 | プレイヤーの努力 | 結果へのこだわり | 任意に取り決め可能な帰結 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
境界事例 | TRPG*1 | × (ルールが柔軟) | |||||
技ベースのギャンブル | × (帰結が取り決め済みである) | ||||||
運ベースのギャンブル | × (努力はしない) | × (帰結が取り決め済みである) | |||||
『SimCity』 | × (明示的な目標は無い) | ||||||
運任せのゲーム | × (努力はしない) | ||||||
Not ゲーム | 遊び | × (ルールが可変) | |||||
ストーリーテリング、ハイパーテキストフィクション | × (結果は固定) | × (努力はしない) | × (こだわりは持たない) | ||||
ライフゲームの鑑賞 | × (特に価値設定はされていない) | × (努力はしない) | × (こだわりを持たない) | ||||
交通、高潔な戦争*2 | × (帰結は取り決め可能ではない) |
*1 TRPG:Table talk Role Playing Gameのこと。「ペンと紙の~」が長かったので、同義で短い名称のものを用いました。
*2 高潔な戦争:国際法を遵守した戦争
上記の表を見たところ、境界事例とゲームでないものは、以下の違いが見られるかなと。
- 境界事例となるもの:1つか2つ、古典的ゲームモデルの特徴を欠いている
- ゲームでないもの:2つ以上特徴を欠いている or ルールが固定的でない or 帰結が取り決め可能でない
この辺は今のところ厳密に述べられてはいないので、ちょっと引っかかりました。
その他この箇所で得られる内容
古典的ゲームモデルにより説明できること
要するにこのモデルを使うことのご利益ですね。
この古典的ゲームモデルは、既存のゲームによる大規模な質的調査が元になっている(と思われる)ため、既存のゲームについて何かしら述べる時(例えばなぜこれはクソゲーなのかとか:いかに古典的ゲームモデルを満たしていないか、という観点から叩ける)はすごい便利だと思います。
- ゲームの範囲を説明する際の骨格
- ゲームとコンピュータの親近性
- ゲーム本体/活動にはルールの厳密な運用が
- ゲームが媒体横断的である理由
- 近年のビデオゲームが、それ以前の媒体を用いたゲームと比較して発展してきているポイント
ただし、このモデルを組み上げるに当たって使用したデータソースが適正であるかの判断がまだできていないので、データソースに基づく限界が存在している可能性はあります。その辺はご注意を。
ゲームとなるために、「物」として、また「活動」としてのゲームがそれぞれ満たすべき要件
ゼミの発表とかで「あなたが言いたいのは活動としてのゲームなの? それとも物としてのゲームなの?」と聞かれる前に。また研究でゲームに触れたい時に、自分がどっちに注力したいか考える際の補助線にどうぞ。
- 物としてのゲーム=明確な形で具体化される、ルールの集合
- 可変かつ数量可能な結果を生み出さなければならない
- 行動の種類を指定しなければならない
- 結果に対する価値づけを行わなければならない
- 感情的なこだわりを持つべきであることを伝えなければならない
- 帰結が取り決め可能でなければならない
- 活動としてのゲーム=状態を変化させる動的なシステム
- 結果が不確定かつ可変かつ数量化可能である
- 結果が持つ価値への理解
- 結果へのこだわりを持つ
- 結果への帰結が取り決められている
あと、研究って既存のものに対してケチつけてそれを土台に進めるもの(らしい)ですが、上記の要件を頭に入れておけば、ケチを付ける際の基準になるかなと思います(この研究で作られているゲームはゲームとは呼び難い。この基準に照らせばここが不足してるから云々、とか)。
ゲーム媒体の評価基準
- あるゲーム本体を別のゲーム媒体で完全に再現できる場合は「実装」、一部情報に欠けが存在する場合は「翻案」と呼ぶことにする
- 「実装」できるゲーム媒体を上位のものとするならば、日本のゲーム業界がVRとかの最新映像技術に力を入れる理由が理解できる
- ただし、「翻案」の持つ魅力も説明されるべきではある:例えば、翻訳論がそれに一番近いのでは無いだろうか。
- ゲーム媒体は、ゲームの支持体として以下の2通りで役割を果たす
- 演算処理:ルールの維持、処理→「これをこうしたらこうなる」の説明、特定の行為がゲーム中で禁じられていることの明示など
- 記憶装置:ゲーム状態の記録・管理→「今ゲームはこうなっている」の明示、「あなたはこの行為をした故にこの結果となっている」の明示など
この辺はメディア研究で行われている媒体特性の研究と接続させて、「このゲームを実現するならこの媒体が適切である」ということを論じたり、「媒体としてゲームを用いるにはこういった適切さがある」といったことを論じるのに使えそうですね。自分も将来的には、シリアスゲームの研究をする際の地盤固めにこの辺を利用したいです。
その他
- ルールが厳密に定義されていることにより、ゲームは繰り返し可能なできごととなる(p.63)
- これがゲームの特徴となっていないのは、ルールの存在が前提となる=「ルールが存在する」というところから演繹的に(?)導き出すことができるからかなと
新しく出てきた疑問点
- 23.シーモア・チャトマンとは? 物語論というとロバート・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』が浮かぶが、そことのつながりは?
- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異は何か?
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの違いは?
疑問点まとめ
- 2.古典的ゲームモデルの組み上げ方
- 3.創発型の新規性証明
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
- 5.ゲームデザインに対して可能なゲーム研究からの貢献
- 6.実際のゲームを研究に取り入れる形式
- 8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続
- 定義を作るとき以外の接続
- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 10.境界事例を述べる形式・具体例
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 13.「ルール」と「実践」の関係
- 20.帰結への従属を促す名誉以外の要因の有無
- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
- 23.シーモア・チャトマンの、物語論研究における位置づけ(特にロバート・キャンベルとの比較において)
- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの差異