ゲームしている人のブログ

デジタルゲームとその研究に関することを書いていきます

ハーフリアル紹介-4 フィクション(2)

『ハーフリアル』について、読後のレジュメをまとめました。
学生の人にはゲーム研究の入り口として、また社会人の人にはゲーム研究を実務に活かす切り口として、参考になれば幸いです。

ここでは、「4 フィクション」の章について紹介します。
今回紹介する内容は pp.155~191 までの内容です。



読んだところの概要・感想

 今回まとめたところは、まとめる作業するタイミングが飛び飛びになったのもありますが、体系だててまとめようとすると結構苦労しました。内容のカテゴライズにちゃんと正当性持たせるのって難しいですね。
 内容としてはゲーム内外における時間について、どう論じるかの枠組み提供がメインのように思いました。枠組みを用いてどのような論を展開するかは以降のページになるのかなと。まとめ方としてはキーワードの列挙をすることにしてます。

 本当はp.200まで一気にまとめたかったのですが、p.191から物語論についても言及されはじめて話が拡散しそうだったので一旦ここまでで公開します。

ゲームの時間に関するキーワード

プレイ時間(play time、p.176)

  • →ゲームが始まってから終わるまでの、現実の時間
    • 虚構世界を持たないゲームの場合、見ることができる時間はこれのみ
    • 状態機械としてのゲームは、このプレイ時間か、プレイヤーの行動を基準に状態を移行させる
      • リアルタイムでの移行:プレイ時間の経過に準拠して状態が移行する
        • →プレイヤーの行動は、状態機械の外的要素の一つとなる?
      • ターンベースでの移行:プレイヤーの行動に準拠して状態が移行する
        • 行動にかけるプレイ時間には、一定の枠を課すことができる

虚構時間(fictional time、p.177)

  • →ゲーム内の虚構世界で経過する時間
    • 虚構世界内の出来事は、この虚構時間にしたがって進行する
      • 出来事の推移と虚構時間の経過は、現実世界を参考にして設定される
      • 虚構時間が経過していることは、標識や出来事の推移から特定できる

投影(projection、p.178)

  • →プレイ時間を虚構時間に結びつけること、またプレイ時間を歴史的に位置づけること?
    • この投影により、プレイヤーのプレイ時間と行為に、虚構世界内における意味が与えられる

投影の仕方=二重の構造(p.175)のバリエーション

  • →二重構造=現実世界(一次的世界)上の事物に、虚構世界(二次的世界)上の役割が割り当てられている(p.175)こと。
    プレイ時間の経過をどう虚構時間の経過と結びつけるかには、様々なバリエーションがある
    • リアルタイム(p.177):プレイ時間と虚構時間を同じ速度で経過させる
      • この投影の仕方により、プレイヤーは虚構世界のキャラクターに自身を重ね合わせる=二重性を経験する
    • 圧縮(pp.177-179):虚構時間で経過する時間を、プレイ時間で経過する時間に対して長めに設定する(例:プレイ時間の1秒を虚構時間の1時間、1年間に対応させる)
    • 引き伸ばし(主観的な時間(p.190)):虚構時間で経過する時間を、プレイ時間で経過する時間に対して長めに設定する
      • 一時停止やスローモーションにより、「成功している」虚構時間を引き伸ばす
      • この表現が可能なのは、挑戦するということ自体が時間に対する主観的な経験のあり方に影響を及ぼすから(p.190)
      • (コメント)ユールはこれまで整合的かどうかについて、虚構世界の視点のみで説明できるかどうかで言及していたと思うのだけど、一時停止を非整合的と言えるのだろうか?
        • 例えば虚構世界において、時間の停止・停滞を認識することはできるのだろうか?
        • また主観的に時間が遅く感じる現象? については、例えば走馬灯といったものがあり、決して非整合的=虚構世界の視点のみから説明できないとは思えない

時間の長さの経験について

  • ①どのようにプレイ時間が虚構時間に投影されているか、また②プレイヤーにどのような挑戦課題が与えられているか、から推測することが可能(p.191)
    • むだ時間(dead time、p.191):虚構世界においては意味を持つが、現実世界において(特にプレイヤーにとっての)意味を持たない行為をする時間 →いわゆる作業ゲーの「作業」をしている時間
        1. この「むだ時間」は、現実世界において意味を持たない行為の時間を指しており、またそれが実際に「むだ」である=プレイヤーの経験として良くないものであることは直感としてよく分かる。では逆に、現実世界において意味を持つが、虚構世界において意味を持たない時間はなんと読んだらいいだろうか(例えば、RPGのサブクエスト消化。キャラクタのイベント、プレイヤーの戦略の幅も増えたりするが、一方でメインクエストが進まない以上、虚構世界としては大抵の場合無意味である)。
      • →A. 例えば「回り道」とか。
        • でも、ゲーム内で「短期間で成長する有望株」として演出されるのであれば、そこまで無意味でもなさそう……?
        • →無駄である/ないの議論は、議論の幅をちゃんと設定しないと面倒くさそうですね()

投影の虚構時間における整合性について

  • 投影による虚構時間は、虚構世界から見たら非整合的に経過させることができる
    • 例:経験的にありえない時間経過の仕方や、ラウンドの切り替わり
    • 非整合的な時間の経過は、決して虚構世界を描くことを阻害するものではない(例:インベーダーゲーム
      • これが可能なのは慣習として成立しているから(pp.188-190)である
    • ダイエジェティック(p.186):あるものが虚構世界の中のものであること
      • 聴覚情報、特に BGM については、虚構世界(虚構時間)から逸脱するもの(=非ダイエジェティックなもの)として描かれることが多い(例:一時停止中に流れるBGM)
      • その世界の「雰囲気」を維持するものとしては機能(P.186):つまり、音は割りと曖昧に=非整合的であるかを問われにくいものとして扱うことができる?
    • カットシー(p.179):虚構時間とプレイ時間の投影関係を切断し、虚構時間のみを任意に操作すること
  • 後述の時系列の話と比べると、よりミクロなレベルでの話となりますね

時系列順(chronological、p.180)

  • →大抵のゲームにおける、可能な出来事の並べ方。
  • →先述の整合性の話と比べると、よりマクロなレベルでの話となります

それ以外の並べ方について

  • フラッシュフォワード:未来の出来事を描くこと
    • 行為に影響されうる未来/されない未来の両方を描くことができる
      • ここでは言及されてないが、おそらくその出来事の中でプレイすることも含むのでは?
    • ゲーム内で使われていない理由:プレイヤーの行為が実際には重要ではないことを意味するから(p.180)
  • フラッシュバック:過去の出来事を描くこと/プレイすること
    • 描く分には問題ないが、プレイ可能(インタラクティブ(p.182))にすること、タイムマシーン問題(過去の行為によって現在の状況が不可能になる問題)が起きる
    • 事物の提示により過去を表現することもできる
  • →過去と未来の出来事についてもプレイ可能なものにすることを、本書内ではそこまで推奨していない

疑問点について

 今回これまでに出てきた疑問点の中で、読むに辺り特にテーマにできそうなものが無かったので、振り返りは割愛します。

新しく出てきた疑問点

  • 41.フロー理論等の文脈で、時間の経験はどのように扱われているのだろうか?
    • p.191の「時間の経験」で「むだな時間」について取り上げていたのは面白かったのですが、逆にそれ以外の経験についてなんも言及されてなくてちょっともやもや。
    • そもそも経験されないものとして扱われているのでしょうか? この辺はちゃんと他の文献読んでみたいと思います。
  • 42.出来事の並べ方について、SF の文脈でなされている議論を取り入れているとどうなるか
    • 今回フラッシュバックやフラッシュフォワードについてはネガティブに書かれていたのですが、もう少し SF の方面でなされている議論を取り入れた上で論じた方が良いのではないかなあと思いました。
      • 例えば「パラレルワールド」とか「多次元的宇宙論」についても取り上げた上で、上記2点について論じても良いのではないのかなあと素人目には思いました。
    • また重要性の議論についてもちょっと疑問があります。
      例えばプレイヤーの成功/失敗にもかかわらず、先に提示した出来事が発生するのであれば、確かに重要性が無いことは分かるが、一方でプレイヤーが失敗したらその場でゲームオーバーになるのであれば、プレイヤーが成功することについては重要であるのではないのでしょうか?
      • 失敗時に虚構世界をリセットさせるかとかそのまま継続させるかとか、どのように演出するかの問題であるような気がします

疑問点まとめ

本書外への疑問点

  • 41.フロー理論等の文脈における時間の経験に扱われ方について
  • 42.SF の文脈でなされている時系列の議論、およびそれを踏まえた出来事提示の技法について

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