ハーフリアル紹介-3 ルール(2)
『ハーフリアル』について、読後のレジュメをまとめました。
学生の人にはゲーム研究の入り口として、また社会人の人にはゲーム研究を実務に活かす切り口として、参考になれば幸いです。
ここでは、「3 ルール」の章について紹介します。
今回紹介する内容は pp.93~116 までの内容です。
なお、今回疑問点のところについては予想以上に時間がかかったので後から更新します。
あしからず。
(2016-10-12 追記)疑問点のところを追加しました。
読んだところの概要・感想
今回読んだところはゲームの創発性についての議論が大半でした。
創発性をどの程度コントロールしているかで、創発型か進行型かを分けているように思いました。
創発性についての文章は読む分には楽でしたが、理解して説明しようとするとなかなか難しいですね。
別途ちゃんとした本で改めて理解する必要がありそうです。
読んだところの内容
ビデオゲームが挑戦課題を与える仕方
- ビデオゲームの課題提示構造には、創発と進行の2種類がある。
- 大抵のゲームは両者の混合型であるが、どちらの要素が強いかで見ることも可能
- 創発要素を持った進行型ゲーム:定められた局面を順にクリアしていくが、そのクリア方法は多様に存在
- アウトプットさえ出ればプロセスは気にしない、といった感じですね。
- 進行要素を持った創発型ゲーム:局面の展開は創発的に進むが、それぞれの局面においては手順を踏む必要あり
- 自由に進められるけど、クリアの手順は守らせる、といった感じですね。
- →挑戦課題の仕方で分類することで、マクロレベルでのゲーム状態と、ミクロレベルでのゲーム状態をそれぞれ別に分けるとこういった分類の仕方ができる、といった感じでしょうか。
そして上記の分類がクロフォードやスミスの区別と違うところは、そのレベルがちゃんと分けられているところにあるように思われます。- 例えばクロフォードの分類は情報重視/処理重視の分け方ですが、別に「あちらが立てばこちらが立たず」といった互いに独立な分け方ではありません。札束で殴れば両立しそうです。面白いかどうかは置いといて。
札束で殴るとことができず、開発費的にどちらに重点を置くべきかという話になった時に、そういった分類の仕方をすることで一般論を展開できたのではないでしょうか(要検証)。
- 例えばクロフォードの分類は情報重視/処理重視の分け方ですが、別に「あちらが立てばこちらが立たず」といった互いに独立な分け方ではありません。札束で殴れば両立しそうです。面白いかどうかは置いといて。
- 創発要素を持った進行型ゲーム:定められた局面を順にクリアしていくが、そのクリア方法は多様に存在
創発型ゲームについて
これまでの「創発」の議論
- ゲームデザイン論における「創発」
- 複雑性の科学における「創発」
- 単純なルールから複雑な戦略がどのように生まれるのかを説明するための枠組みを提供
創発的なシステムはすべて、その諸要素が強く連関している(p.106)
そこでの知見のひとつは、ライフゲームには規則正しいふるまいをするパターンが数多くあるということ(p.107)
- 単純なルールから複雑な戦略がどのように生まれるのかを説明するための枠組みを提供
ゲームにおいて想定できる創発の種類
- 多様性(variation)としての創発:様々なゲーム状態を可能にする
- 課題の与え方:目標を達成するための可能なプロセスを多様にすることで、どれを選択するか考えさせる?
- パターン(pattern)としての創発:ルールからはすぐに推測できないパターンを生み出す
- 還元不可能性(irreducibility)としての創発:特定のゲーム体験を、ルールの変更のみで生み出すことができない
- ルールの変更だけでなく、デバッグも必要になる、ということですね。
- 課題の与え方:汎用的なパターンに還元できないようにすることで、(個別ゲーム状態レベルにせよゲーム全体レベルにせよ)「その場限りのパターン」を生み出すよう促す?
- 新奇性(novelty)または意外性(surprise)としての創発:予想していない形でゲーム内要素が結びつくことがある
- これ自体は認知レベルの問題で、
そこでなにが起きたかをプレイヤーが事後的に理解することによる驚き(p.111)
である- これはつまり、進行型ゲームでもそういった驚きが得られる、ということを示唆していると思われます。
伏線のよく練られた小説が、一番の参考になるでしょう。
- これはつまり、進行型ゲームでもそういった驚きが得られる、ということを示唆していると思われます。
- 課題の与え方:一定の限界が認められる既存のパターンに対し、新しいパターンを生み出すよう促す?
- これ自体は認知レベルの問題で、
疑問点について
前章より持ち越した疑問点
という訳でおさらい。そろそろこれもちゃんとまとめページ作った方がいいですね。
- 3.進行型の新規性証明
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
6.実際のゲームを研究に取り入れる形式8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの差異
- 26.ルールと実践の相互作用と社会集団の形成はどう関係するのか?
- 28.情報量低減(information reduction)とは何か
- 1.情報量低減(information reduction)の全体像は?
- 2.ルールの理解は、プロセスのどこの一部をなしているのか?
- 3.取り上げることにどういった利点があるのか?
本書外の課題に移すもの
- 6.実際のゲームを研究に取り入れる形式
- 8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続
→これらについては、一通り読み通した後にまとめた方が作業効率いい気がしてきたので一旦本書外として除外。
いや、別に面倒くさかったわけじゃないです
問いを洗練させた疑問点
今回解決まで至った疑問点は無かったのですが、問いを洗練させることができたものはあったのでそちらを検討したいと思います。
3.進行型の新規性証明について
まず、この疑問点を立てるきっかけとなった本文箇所はこちら。
進行は、歴史的に見れば比較的新しい構造だ。この構造は、アドベンチャージャンルを通してビデオゲームの一手法として確立した。(p.13)
ここでまず1つ、問を立てるに当たっての仮定を次のように立てます。
(便宜的に立てる仮定なので、本当は要検証。間違っていたら失礼)
- 仮定:ユールは進行型の成立過程について、次のように認識している
そしてこの疑問点において問題としているのは、4の結論を導くにあたって必要となるそれ以前の認識、特に2,3の認識が正しいのかというところです(1自体は技術史的に新しいと言えるので度外視)。
これをちゃんと問いの形で整形するとこんな感じになるかなと。
本書内で分かるのは A の問までで、B の問は本書外の課題に移すことにします。
以下では A の問について、答えを出してしまいたいと思います。
A.アドベンチャージャンルから導き出される進行型の構造はどのようなものか
さて、当のアドベンチャーゲームが進行型の構造を持つとしているのかわからないと、そもそも以降の議論が進みませんね。
まずは進行型がどういうものなのかについて、上の方で書いたものをちょっと書き直して持ってきます。
- 進行型の構造を持つゲームは、
連続する挑戦課題のそれぞれを直接的に提供(p.93)
する- 開発者側で、展開を強力にコントロールすることが可能
- ゲーム内のルールや要素間の関係が、狭い範囲にとどまっている
しかしこれだけではちょっと物足りないので、本書で例として取り上げられている『The Hobbit』と『The Longest Journey』周りで言及されていることから解釈できる範囲で筆者が想定している進行型のゲームの特徴をまとめると、次の通りになるかなと。
- 進行型の構造を持つゲームについて
- どのような認知的? 特徴を持つのか
- 表面上は複雑に見えるが、実際には単線的なルートしか存在しない
- クリア後はプレイする理由がなくなる
- どのようにクリアするのか
- 幾つかの課題を試行錯誤してクリアするが、その手順は一意に定まる
- 逆に言えば、それ以外の手順はすべて失敗とみなされる
- どのようなルールを持つのか
- 沢山のルールが存在し、ルール内でできることが限られる
- どのような認知的? 特徴を持つのか
基本的に創発型のゲームとほぼ反対の特徴を持つ、という認識で問題はなさそうです。明確にそうだと本文中で述べられているところは(読んだ限り)無かったので一応。
またこの議論の大前提として、古典的ゲームモデルに則っている、ということも付け加えておきましょう。
ちなみに、参考とした記述は以下の通り。
- 『The Hobbit』について
ゲームをクリアするには、いくつかの挑戦課題を乗り越えなければならない(p.94)
表面上はかなり複雑なゲームに見える。そこには大量のグラフィックや文章があり、非常に多彩な舞台がある。(p.94)
プレイヤーがすることのできる行為の種類がかなり多い(p.94)
クリアまでの手順を書き並べると、一枚の紙に収まってしまう(p.95)
はじめてプレイするときには、クリアに必要な一連のコマンドを正しく入力することができないだろう(p.95)
いったんクリアすれば、このゲームの可能性はすべて出尽くしてしまう(p.95)
多くのルールを使って挑戦課題を与えていくが、それにもかかわらず、そのゲームのなかでできることの幅はかなり狭い(p.97)
- 『The Longest Journey』について
エイプリルが助かるには、プレイヤーは決められた一連のイベントをこなさなければならない(p.99)
正しい道よりもまちがった道のほうが多い(p.102)
以上でとりあえず進行型のゲームがどういうものかの特徴が出せました。
その特徴に合致したものが『Adventure』以外にも存在したかどうかの検討については本書外の課題としたいと思います。
(海外ですでに論文出ているよー、とかあれば教えてもらえると幸いです。。。)
ゲームブックとか双六とかどうかなーと軽く調べてみたら沼が深かったでござる
疑問点まとめ
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの差異
- 26.ルールと実践の相互作用と社会集団の形成はどう関係するのか?
- 28.情報量低減(information reduction)とは何か
- 1.情報量低減(information reduction)の全体像は?
- 2.ルールの理解は、プロセスのどこの一部をなしているのか?
- 3.取り上げることにどういった利点があるのか?
一時期を考えると順調に数が減っていて安心しますね。幾つか解決を本書外に追いやったものがありますが()
本書外の課題
おまけ:『Adventure』を遊んでみた
最初のアドベンチャーゲームって言われたら遊ばないとなーと思ったので遊んでみました。
予想外に難しかったです。というかクリアできないorz
その辺のことをまとめた記事がこちら。
『Adventure』は議論の正当性を調べる意味でも、是非一度遊んでみてください。