ハーフリアル紹介-3 ルール(1)
『ハーフリアル』について、各章ごとの簡単な紹介……というか読後のレジュメ? をまとめました。
学生の人にはゲーム研究の入り口として、また社会人の人にはゲーム研究を実務に活かす切り口として、参考になれば幸いです。
ここでは、「3 ルール」の章について紹介します。 今回紹介するのはpp.76~93までの内容です。
読んだところの概要・感想
ゲームにおけるルールについての定義論がメインで、理解するのになかなか頭が疲れました。
ルールと言うからには法律の話でも出てくるのかしら、と思ったら微塵も出てこなかったのでちょっとびっくり。この辺は個人的に補完するしかなそうですね。
とりあえずは法社会学をキーワードに見たら面白そうかな?
中公新書とか有斐閣アルマの本とか暇つぶしに読んでみたいと思います。
読んだところの内容
議論の前提
- ゲームが楽しいのは、達成感をプレイヤーが楽しむから
- 複数人参加型のゲームでは、それ以外の要素からも楽しみが生じうる
ルールとはなにか
- ゲームに構造=行為に対する制限と創造可能性を作り出すもの
- 制限の側面:ゲーム内で、ゲーム以前に存在しているルール(身体や物理法則)の使用に対して制限を加える
- 例えば、サッカーで手を使ってはいけないというのが一例です
- 行為を作り上げる側面:ゲーム内で、ゲーム内部でのみ意味のある行為を作り出す
- 例えばボールの受け渡しを基本的にキックでのみ行うなんて、サッカーでないとあまり意味がないですよね
- バスケットボールをキックして渡したら意味があるどころか怒られそう
- 例えばボールの受け渡しを基本的にキックでのみ行うなんて、サッカーでないとあまり意味がないですよね
- 制限の側面:ゲーム内で、ゲーム以前に存在しているルール(身体や物理法則)の使用に対して制限を加える
- この観点から言えば、ビデオゲームのスポーツと、現実世界のスポーツの違いは、
そのゲーム以前にすでに存在している物理的な世界のシステムをそのゲームの道具として利用するかどうかという点
(p.81、太字引用者)につきます。
ルールの働き方
ルールは、システムとしてのゲームとそのプレイヤーの中/間で、以下のように振る舞う
- 1.具体的な個々のルールが、その運用について参加者の合意が取れる程度に明確にされる
- 2.それらのルールは、一つの状態機械(=オートマトン、行為に対して反応を返す機械)を作り上げる
- 3.そのゲームの状態機械は、ゲームツリーとして視覚化できる
- 4.プレイヤーはそのゲームツリーの中にある複数の結果の内、ポジティブな結果に向かう限りで、挑戦課題に直面する
- 前提:プレイヤーはポジティブな結果への到達を目指す
- 5.その挑戦課題を提供するルールと、その課題を乗り越えようとするプレイヤーの相互作用が、ゲームプレイとなる
- 6.プレイヤーはそのゲームプレイ=課題を乗り越えていく活動の中で、学習を経験する(=自身のスキルを向上させていく)
- 7.プレイヤーが感じる個々のゲームの違いは、ルールがもたらす楽しい経験の差である
「ルール」をプレイヤーの側面とゲームそれ自体の側面から考えるための枠組み
- ゲーム理論とコンピュータ科学の考え方を使用
- プレイヤーの側面→ゲーム理論:戦略(完全戦略、支配戦略)
- プレイヤーの行動を間接的に拘束する「戦略」と、直接的に拘束する「ルール」を分離するために使用
- ルールではないが、ルールから導き出されるものである
- ゲームそれ自体の側面→コンピュータ科学:状態機械
- ルールが作り上げ、また最終的にプレイヤーが相互作用する対象を作り上げるために使用
- ここから、ゲーム状態(=ある時点でのゲーム状態機械が持つ状態)を定義
- この遷移はゲームツリー=シンプルなルールから生まれる複雑な戦略を見る道具として視覚化できる
- プレイヤーの側面→ゲーム理論:戦略(完全戦略、支配戦略)
ルールの条件
- ルールとして導入できる条件(クヌースによるアルゴリズムの特徴をベースに)
- 有限性:有限の時間内に、必ずその適用が終了する
- 確定性:曖昧でなく、議論の余地がない
- 理解を必要とせず、また限定されたものに対してのみ反応すれば良い
- 入力:決められた入力にのみ反応する=関連性のルールを持つ
- 出力:適用後に、ゲーム状態に対して変化をもたらす
- 実効性:有限時間内に、正確に適用することができる
ルールの作り方
- 明確なデザイン(ビデオゲームの場合):デバッグの繰り返しにより決まる
- その場でのすり合わせ(民間伝承のゲームの場合):個々のプレイヤーにより決まる
- この場合、プレイヤーは多様なルールのあり方を許容している
- 少なくとも、開始以前に決まっている必要はある
ルールについて話し合う楽しみ
- ルールについての意見の不一致は、必ずしも面倒なものではない
- リーヴァー(1976)の議論を援用:
ゲームの強調点が変わることで、その楽しさが別のところに移ることがありえる(p.91)
- →ルールの違反者が失敗していることを楽しんでいる?
- リーヴァー(1976)の議論を援用:
- 事前に決まっているべし、という議論とは矛盾しない
ほかの種類のルール
- ゲーム内には明示的に存在しないルール
- 行動ではなく、プレイヤーに対するルール(例:スポーツマン湿布)
- ゲームセッションの開始・終了や文脈の相互作用を管理する権限:
「ゲーム運用」(gaming)(p.93)
- 物理法則:重力、タイムラグ →これらのルールは、むしろ取り決め可能な帰結に影響を及ぼすもの
章立てを見る限りですと、ここまでが定義論で、以降はこの定義を用いた議論を展開していくように思われます。
ここでしっかり定義を理解した上で、次の節に進みましょう。
疑問点について
前章より持ち越した疑問点
- 3.進行型の新規性証明
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
- 6.実際のゲームを研究に取り入れる形式
- 8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続
- 定義を作るとき以外の接続
- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 13.「ルール」と「実践」の関係
20.帰結への従属を促す名誉以外の要因の有無- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
23.シーモア・チャトマンの、物語論研究における位置づけ(特にロバート・キャンベルとの比較において)- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの差異
そういえば一部本書の外に出る疑問点があったので、その分は削除。
解決した疑問点
13.「ルール」と「実践」の関係
どういう疑問だったか前に書いたものを見直したらちょっと意味が取りづらかったので、ちょっと書き直して再掲。
ゲームのルールと社会的な集団形成が相互に関係する
(p.48)、つまり「ルール」と「集団形成」の2つが関係すると言う一方、なぜ「実践」と「社会形成」が関係する(ひとつの特定のゲームをプレイする実践を取り巻くかたちで集団ができていく
(p.48))と述べているのか?
引用した箇所の後に3章で述べる、的なことが書いてあったので、この辺に答えがあるかなーと思ったのですが、おそらくp.89以降の記述が解答の一部になるかなと。
問に答える形でざっくりまとめると、以下の通り。
- 「ルール」はゲームの前に、プレイヤーたち(=社会集団?)の合意を通して形成され、プレイヤーたちはそのルールにもとづいてゲームプレイを「実践」する
- 「ルール」は事前に決められるだけでなく、「実践」の中で修正されることもある
- →「ルール」が「実践」を形作る一方、「実践」が「ルール」を修正する側面があるという意味で、両者は相互に作用している
- →ゲームの構造を絶えず作り変えるような関係にある、と言っていいでしょうか。
とりあえず、これで当初の問いにはスッキリ答えられたような気がしますが、書きながら別の疑問点が湧いてきたので後述します。
新しく出てきた疑問点
- 26.ゲームはどのように集団を形成するのか?
- 厳密に言えば、「ルール」と「実践」の相互作用と、どう関係しながら集団を形成するのか? というのが問になります。
p.48で書いてある通り、3章のどこかでひとつのゲームがどのようにコミュニティを形成していくか(p.48)
は論じられるので、この後の展開を楽しみにしましょう。
- 厳密に言えば、「ルール」と「実践」の相互作用と、どう関係しながら集団を形成するのか? というのが問になります。
- 27.(本書外)ルールを形作る過程を、もう少し理論的に&有機的に見てみたい
- 28.情報量低減(information reduction)とは?
- p.87で出てくる用語です。
あるゲームのルールを理解することは、裏を返せば、そのゲームの純粋に装飾的な側面を無視することを理解することにほかならないからだ。(p.87)
とあり、これが情報量低減のプロセスの一部をなすらしいがこれはどういうことでしょうか?- もうちょっと疑問点を分割するとこんな感じでしょうか。
- 1.情報量低減(information reduction)とはどういうものか? どういう全体像を持つのか?
- 2.上記引用箇所で述べていることは、上記プロセスのどこの一部をなしているのか?
- 3.これを取り上げることでどういった利点があるのか?
- 日本語でちょっとググったら情報工学の話が、英語でググったら技能獲得の話が出てきました。参考文献調べたら以下の文献が出処らしいです。下記論文は海外サイトでも言及されていたので、技能獲得の話として見るのが良さそうですね。
ともあれ、本書でどういう使われ方をするのか楽しみです。- 該当参考文献
Haider, Hilde, and Peter A. Frensch. “The Role of Information Reduction in Skill Acquisition.” Cognitive Psychology, No.30 (1996): 304–337.- 調べて気付いたのですが、邦訳版だと「340-337」となってますが、正しくは「304-337」です。だからどうということもありませんが。
- 該当参考文献
おまけ:格言の出典
p.78にノーラン・ブッシュネルの格言が掲載されてますが、その出典がどこか気になったのでちょっと調べてみました。その記事がこちら↓
疑問点まとめ
本書内での疑問
- 3.進行型の新規性証明
- 4.ルールとフィクションの相互作用の詳細
- 6.実際のゲームを研究に取り入れる形式
- 8.ビデオゲーム研究と既存のゲーム研究の接続
- 定義を作るとき以外の接続
- 9.中間領域が持つ生産性の詳細
- 11.「自己目的」性がゲームの定義に使用できない理由
- 21.ゲームルールの明確性が議論の対象となる理由
- 22.ルール=ソフトウェアを「内蔵」しているハードウェアの議論の射程
- 24.ルールが「可変」であることと「柔軟」であることの差異
- 25.帰結が「取り決め済みである」ことと、「取り決め可能でない」ことの差異
- ルールと実践の相互作用と社会集団の形成はどう関係するのか?
- 28.情報量低減(information reduction)とは何か
- 1.情報量低減(information reduction)の全体像は?
- 2.ルールの理解は、プロセスのどこの一部をなしているのか?
- 3.取り上げることにどういった利点があるのか?
本書外での疑問
- 20.帰結への従属を促す名誉以外の要因の有無
- 23.シーモア・チャトマンの、物語論研究における位置づけ(特にロバート・キャンベルとの比較において)
- 27.ルールを形作る過程を、もう少し理論的に&有機的に見てみたい